The scenario

対象読者: アーキテクト、アプリケーションおよびスマートコントラクト開発者、ビジネス専門家

このトピックでは、6つの組織が関係するビジネスシナリオについて説明をします。 これらの組織は、Hyperledger Fabricで作られたコマーシャルペーパーのネットワークであるPaperNetを用い、コマーシャルペーパーの発行、購入、現金化を行います。 ここでは、このシナリオを用いて、各組織が用いるコマーシャルペーパーのアプリケーションとスマートコントラクトに対する要件の概要を説明していきます。

PaperNet network

PaperNetは、コマーシャルペーパーのネットワークで、適切に認められた参加者が、コマーシャルペーパーの発行、取引、現金化、評価をここで行うことができます。

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コマーシャルペーパー・ネットワーク PaperNet。現在、6つの組織が、コマーシャルペーパーの発行(Issue)、購入(Buy)、売却(Sell)、現金化(Redeem)、評価(Rate)に、PaperNetネットワークを使っています。MagnetoCorpがコマーシャルペーパーを発行し現金化を行います。 DigiBank、BigFund、BrokerHouse、HedgeMaticはすべて互いにコマーシャルペーパーの取引を行います。 RateMは、コマーシャルペーパーに対する様々なリスク計算を提供します。

MagnetoCorpが、自社のビジネスのために、PaperNetとコマーシャルペーパーをどのように用いるかを見ていきましょう。

Introducing the actors

MagnetoCorpは、自動運転の電気自動車を製造している高く評価された企業です。 2020年4月の初めに、MagnetoCorpは、個人向けの輸送市場に新しく参入したDaintree向けに、10,000台のModel Dを製造するという大きな注文を獲得しました。 この注文は、MagnetoCorpにとって非常に重要な成功を意味していますが、Daintreeは、11月1日に納入が開始されてから自動車の代金を払う予定です。 これは、MagnetoCorpとDaintreeが正式に契約に合意してから6ヶ月後です。

自動車を製造するには、MagnetoCorpは少なくとも6ヶ月にわたって、1,000人の労働者を雇用する必要があるでしょう。 これは、会社の財政に短期的な負担をもたらします。 新しい従業員の給料として毎月5M USD(500万ドル)が追加で必要となります。 コマーシャルペーパーは、MagnetoCorpが、この短期資金の必要を乗り越えるために、計画されたものです。 Daintreeが新しいModel Dに対しての支払いが始まれば多くの現金が得られることを見込んで、毎月の給料支払いにあてるためのものです。

5月末の時点で、MagnetoCorpは、5/1に雇用した追加の労働者の給料のために、5M USDが必要です。 このために、MagnetoCorpは、額面が5M USDであり、Daintreeからの現金フローが見込まれる6ヶ月後を満期とするコマーシャルペーパーを発行します。 DigiBankは、MagnetoCorpが信用できると考えているので、中央銀行の基準金利である2%(これは、4.95M USDが、6ヶ月後に5M USDとなることを意味します)にあまり上乗せすることは要求しません。 そのため、MagnetoCorpの6ヶ月のコマーシャルペーパーを、本来の価値である4.95Mに対して若干の割引をした4.94M USDで購入します。 DigiBankは、6ヶ月後にMagneto Corpから5M USDを現金化することができ、このコマーシャルペーパーに関するリスクと引き換えに10K USDの利益を得ることができるに違いないと見込んでいます。 この10K USDの利益は、この投資によって2.4%のリターンを得ることができることを意味し、リスクをとらない場合の2%よりは少し良いリターンとなります。

6月末、MagnetoCorpが6月分の給料のために新しいコマーシャルペーパーを発行すると、BigFundがこれを4.94M USDで購入します。 5月と6月の取引の条件はほとんど同じであるため、BigFundは、MagnetoCorpのコマーシャルペーパーをDigiBankが5月に行ったのと同じ価格で評価していることになります。

その後の毎月、MagnetoCorpは、給料支払いの義務を果たすため、新しいコマーシャルペーパーを発行することができ、DigiBankやあるいはコマーシャルペーパー・ネットワーク PaperNetの他の参加者であるBigFund、HedgeMatic、BrokerHouseが購入するでしょう。 これらの組織は、コマーシャルペーパーに対して、二つの要因に従って、購入金額を決定します。 中央銀行の基準金利と、MagnetoCorpに関するリスクです。 後者の値は、Model Dの生産、格付け機関であるRateMによるMagnetoCorpの信用度評価など、様々な要因に依存します。

PaperNetの組織は、別々の役割を持っています。 MagnetoCorpはコマーシャルペーパーを発行し、DigiBank、BigFund、HedgeMatic、BrokerHouseはコマーシャルペーパーを取引し、RateMはコマーシャルペーパーを評価します。 同じ役割を持つ組織、例えば、DigiBank、BigFund、HedgeMatic、BrokerHouseは競合企業です。 異なる役割の組織は、必ずしも競合企業ではありませんが、営業上の利益が相反することがあります。 たとえば、MagnetoCorpは、自社のコマーシャルペーパーを高く売却するために高い評価を得たいと望んでいますが、DigiBankにとっては、より安い価格で購入することができるため低い評価のほうが利益があります。 このように、PaperNetのように単純に見えるネットワークにおいてさえも、複雑な信頼関係が存在することがあります。 ブロックチェーンは、係争に発展することがあるような、競合している、あるいは営業上の利益が相反する組織間で信頼を確立するのに役立つことがあります。 特にFabricは、細かい粒度での信頼関係すらも表現する手段を持っています。

MagetoCorpの話はいったんここまでにして、PaperNetでコマーシャルペーパーを発行、購入、売却、現金化するのに使うクライアントアプリケーションとスマートコントラクトの開発と、組織間の信頼関係を表現することに移りましょう。 格付け機関であるRateMの役割については、少し後で戻ってくることにしましょう。